コラム

村田さんの筋違い角

新書『奨励会』より

 2018年6月末に「奨励会~将棋プロ棋士への細い道~」(橋本長道 マイナビ新書)を出しました。天才棋士・藤井聡太の登場による将棋ブームの中で、プロ棋士になるためには具体的に何をすればよいかという疑問に答える新書です。小説家であり、元奨励会員でもあることを活かした、硬軟織り交ぜた内容になっています。発売後一週間で増刷も決定しました。

 奨励会や将棋界に関する補足については、現在不定期連載中の「15年後の感想戦」(ねとらぼアンサー)で書いていきたいと思います。ここでは連載コラムなどでは語れない新書のこぼれ話を書いていきます。

村田さんが筋違い角を放つ

ではさっそく「村田さんの筋違い角」ということで補足を行っていきます。小学生の時の大会で私が村田智穂女流二段と当たった時の話です。以下、本文を引用します。

 小野市代表としてもうひとつ大きな区分けの将棋大会に出場すると、一回戦で村田さん(現村田智穂女流二段)と当たった。村田さんは「筋違い角」という戦法を使ってきた。初めて目にする戦法に動揺した私は角側の歩を受けてしまう。村田さんは小首をかしげて馬を作った。またたく間に必敗である。以下為す術もなく負けた。

「奨励会~将棋プロ棋士への細い道~」(橋本長道 マイナビ新書)p181「地域格差と地元指導者」より

 上図はその将棋で、後手の村田さんが△6五角と打ってきたところです。初期配置の角筋とは絶対に交わらない筋に角を打つので「筋違い角戦法」と呼ばれています。

 後手の狙いは次に△7六角か△4七角成として序盤早々に歩得をすることにあります。上図の色付きの歩を取ろうとしているわけですね。

 先手は▲5八金右などとして「4七」の地点を守るのが普通です。後手は△7六角として歩得しますが、打った角を上手く使うことが難しく現代将棋ではわずかに先手持ちだと考えられています。

橋本少年▲7七銀!

 ですが田舎者の橋本少年は、初めて見る筋違い角戦法に動揺して別の手を指してしまったのでした。

 ▲7七銀!

 思わず角側の歩「▲7六歩」のほうを守ってしまったのです。当然ながら村田さんは△4七角成としてきました。

 上図は後手が歩得の上、無条件で馬を作れたので優勢です。この後もいいところなく負けてしまいました。

小学生の頃の橋本少年に言いたい。

「そっちの歩を受ける奴があるか!」

参考文献・サイト

「奨励会~将棋プロ棋士への細い道~」(橋本長道 マイナビ新書)

日本将棋連盟HP
15年後の感想戦(ねとらぼアンサー)